□━2006/05/16 第091号━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□
◇◇通訳/翻訳のお仕事発見!◇◇
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▼「名訳者のセンス」田中モー子(匿名投稿)
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■◇「名訳者のセンス」
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2歳と1歳と腹の子に向かって、毎日ひたすら絵本を読まされる日々。世界中から
やってきた、可愛い絵と珍しい物語たちに囲まれて過ごす。
絵本の翻訳というのもやっかいな仕事だ。子供向けの絵本にはややこしい説明はな
い。理解できても感動がなければ意味がない。面白い絵本には文化的バックグラウン
ドがわからないと楽しめない表現もあるはずだが、バッサリ切り捨てず、説明的にな
らず、感動をうむことは小説以上に難しい。
子供の評価はシビアだ。気に入った本は何百回と読まされ、気に入らない本は1回
読んで「さー次は何にしようかな」。有名な作家が文を書いたからいい絵本とは限ら
ない。どうがんばっても、明治生まれの訳は21世紀生まれの人口には膾炙しない。
詩的にしようとして、親がこっぱずかしくて読めないようなボキャブラリーがちり
ばめられているものもある。読みながら「なんじゃこりゃ」とぼやきが入る。もちろ
ん古典の名文はマニアにとっての価値はあるが、親と子の読む絵本の目的とは違う。
親の口から子供の口へ、言葉と想像力の伝道者になれない絵本は本棚の隅で化石とな
ってしまう。
『いってらっしゃいおかえりなさい』(クリスティーヌ・ルーミス/文 たかばや
しまり)という絵本を読んだ。ニューヨークのパパママたちの通勤風景。「電車はガ
タガタ」「自動車ノロノロ」はよくわかるが、「飛行機ブンブン」?「フェリーでざ
ぶざぶ」なに!?フェリー通勤?と、首をかしげながらも、テンポのよさ、カラフル
でやさしい絵に引き込まれていく。
子供を思いながらも仕事に向かい、終わると一目散に子供の待つ家に帰り、あわた
だしい朝食と夕食の中にも幸せがあり、ぐったり疲れて仲良く「おやすみなさい」で
終わる暮らし。日本もアメリカも変わらない働くパパママたちの愛情、この本の主題
がスッと私たち親子の心に入ってきて、明日も保育園にいく元気が出てきた。
毎晩寝る前に、くり返し私たちはこの本を読んだ。原語のタイトルを見ると「Ru
sh Hour」だった。日本語の「ラッシュアワー」、はたまた「つうきんじごく
」ではあまりにもわびしすぎる。
そこで訳者が選んだタイトルが「いってらっしゃいおかえりなさい」。「いってら
っしゃい」も「おかえりなさい」も英語にまったくない言葉なのに、万国共通な心を
みごとに伝えた、名訳者のセンスはさすがだ。
翻訳がマニアだけのものであってはならない。マニア向け翻訳はあってもいいが一
般向けとは別カテゴリと考えるべきであって、マニアが翻訳業界を牛耳っている状況
は異常だ。
中途半端に勉強で得た翻訳技術よりも、心で訳し、子供の言葉でのびのび語ること
のできる才能をもっと育てたい。中学生、高校生のころから、語学を始めて学ぶと同
時に、絵本翻訳に取り組む機会がもっとあってもいい。
みずみずしい感性を持った10代の時期に、決まりきった逐語訳のテストをされバ
ツをつけられて想像力を失わされ、日常会話や旅行会話をネイティブの発音どおりに
まねることや、TOEICのスコアをアップさせることに血道をあげているだけでは
、あまりにももったいない。
(田中モー子=匿名投稿)
◇田中モー子
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