□━2005/07/26 第0074号━━━━━━━━━━━━━━━━━━読者数10142部━□
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▼「読者はバカか」平岩大樹(通訳翻訳館)
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■◇「読者はバカか」
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「本が読まれなくなった」とよくいわれる。何を根拠にそういっているのかといえ
ば、ただ単に書籍の販売点数や販売総額が下がったというだけで、日本人が「本を読
まなくなった」という事実は、どこにもない。
近くの図書館にいけば、たくさん人が来ているし、予約図書の貸し出しも盛んだ。
貸し出し上位ベスト50みたいなこともやっているから、「本が読まれなくなった」
などという論理は空理空論にすぎないということが、すぐにわかる。
ここ十年、何度も何度も「本が売れない」という議論や論評が繰り返されてきた。
それでいて「なぜ本が売れなくなったのか」という原因の探求は、ほとんど行なわれ
ていない。腹立たしいことに「読者がバカになったから」などという言い訳や泣き言
をならべ、読者側に責任を転嫁し続けてきたから、ますます本が売れなくなった。
たとえば、「車が売れない」となれば、それは自動車メーカーや自動車販売店のや
り方に問題があるわけで、けっして「ドライバーがバカになったから」とは考えない
。車に重大な欠陥や構造上の問題が見つかれば、すぐに自動車メーカーの販売台数に
跳ね返る。当然、「車が売れない」のは「ドライバーがバカになったから」などとい
う、甘えた論理は通用しない。
お茶やミネラルウォーターなどといった清涼飲料水だって「ドリンクが売れない」
となれば、それは自分たちが販売しているモノに問題があると考える。ところが、出
版人はそうは考えない。自分たちが販売しているモノに重大な欠陥や構造上の問題が
あるにもかかわらず、売れないのは「読者がバカになったから」などと考え、自らの
境遇を哀れんでいる。
ライトはつかない、ブレーキランプもつかない、そんな新車を喜んで買う日本人が
いるものか。新車なら不良部品を取り替えればいい、ところが新刊の翻訳書はそうは
いかない。車ならリコール騒ぎになるような翻訳書ばかりつくっておいて、本が売れ
ないなどと騒いでいるほうがおかしいのである。
しかもだ。古典の新訳が出るのに30年も50年もかけている。車なら30年間、
一度もモデルチェンジしないということになるが、そんなことをやっている自動車メ
ーカーは日本にない。車なら4年でフルモデルチェンジのところを、権威づけなどし
て古典を時代遅れの「ポンコツ」にしているから、売れるものも売れなくなる。
「読者はバカだ」と考えているから、読者の声や読者の要求が聞こえない。読者カ
ード一枚、翻訳書のつくり一つをとっても、上から下を見下げるような翻訳書ばかり
だ。いまどき、ネットをつかえば、いくらでも読者の声や読者の要求は拾える。愛読
者フリーダイヤルでも、読者専用サイトでも何でもやれるはずだが、新しいことをや
るだけの勇気がない。
「本が売れなくなった」のは、「読者がバカになった」からではない。「読解力の
低下」も「学力の低下」も関係ない。無感動に翻訳書をつくり、数売って、印刷機を
回し、クズのような翻訳書を大量生産しているから、大事な顧客を失ったのだ。
「本が売れなくなった」のは、出版人が読者の声を無視し、自分たちだけの考え、
自分たちだけの価値観、自分たちだけの本をつくってきたからだ。読者の期待を超え
ようとか、脳天に突きささるような翻訳書を出してやろうなどという強い熱意や使命
感などない。
「本が売れなくなった」のは、出版社はじめ、出版人の責任である。読者の声、読
者の要求を素直に聞き、新しい考え方、新しい発想を取り入れ、新しいタイプの翻訳
書を開発してこなかった出版人の怠慢の結果である。
(平岩大樹=通訳翻訳館)
◇平岩大樹
1998年10月、「通訳翻訳館」の前身となった非営利求人求職サイト「個人
翻訳通訳館」を立ち上げる。2000年に同サイトを「通訳翻訳館」に名称変更
するとともに「通訳」と「翻訳」に特化した求人求職サイトを始める。2000
年から通訳翻訳館の館長。http://www.ithouse.net
[この記事は通訳翻訳館ウェブサイトにも掲載されています]
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