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通訳翻訳ビジネスレポート No.13 2003/09/18 投稿:憧れを売る人たち
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◆━2003/09/18 第0013号━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆

◇◇通訳翻訳ビジネスレポート◇◇
    http://www.ithouse.net/
◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆


◇目次━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

<投稿記事>
 ◆「憧れを売る人たち」平岩大樹(通訳翻訳館)

<書籍紹介>
 ◆『通訳の英語 日本語』小松達也(著)
 ◆『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』村上春樹 柴田元幸(著)
 ◆『バブルの歴史』エドワード チャンセラー (著)山岡洋一 (翻訳)

<編集後記>
 ◆「オレ、わたしにも言わせてを取り上げます」

<投稿記事募集要項>
 ◆「あなたからの投稿を募集しています」


<= 投稿記事 =>―――――――――――――――――――――――――――――――

■■………………………………………………………………………………………………
■◇「憧れを売る人たち」
■■………………………………………………………………………………………………

 通訳者や翻訳者が「憧れの職業」だと宣伝している人たちがいる。たしかに一流の
通訳者や翻訳家は会社などの組織に頼ることなく、自分自身の能力や裁量で仕事を行
ない収入を得ることができる職業である。サラリーマンのように社内の人間関係に悩
むこともないし、決められたノルマもない。結婚・出産したからといって仕事がなく
なることもないしセクハラや性差別に憤ることもない。

 だからといって「憧れの職業」であるかといえば、そんな職業ではない。通訳翻訳
ビジネスは実力社会なので、まず実力がなければどうしようもない。実力を持つ人で
も常に自分の知識や能力を磨き、同業者と競争していかなくてはならない。しかも収
入の保証は一切なく病気をすれば無収入になり生活すらできなくなる。定年はないが
、手厚い退職金や企業年金はない。

 自分の生活を自分で管理し、目標を立て、それを達成していかなければならない。
ときには孤独と戦い、ときには自分を励まし仕事をしていかなくてはならない。頼れ
るのは自分ひとりの能力と力量だけなのだ。会社という組織を抜け出せば学歴や勤続
年数など、まったく意味をなさないむきだしの競争社会に投げ出される。

 通訳業・翻訳業は「憧れの職業」などといってもてはやす職業ではない。一流の通
訳者や翻訳家は自己責任と自己管理のもと、自身のキャリアを築きあげた人たちだ。
組織中心の企業文化の中で自分の能力を売り、生活していくことは「尊敬」に値する
が、「憧れ」の対象にすることではない。何よりも通訳や翻訳で生活している通訳者
や翻訳家に対して失礼だ。

 「憧れの職業」だという幻想を作りあげ、宣伝している人たちは、通訳や翻訳で生
活していくことの難しさ、厳しさを知っている。一握りの人たちだけが通訳や翻訳で
生活していることもちゃんと知っている。「憧れの職業」でないことでさえも知って
いる。それなのに「憧れの職業」だという。憧れ幻想を作りあげて宣伝している人た
ちは通訳業・翻訳業で生活などしてはいない。本当に憧れているなら、自分の職業に
すればいいが、そんなバカなことはしない。

 憧れ幻想を作りあげ宣伝すれば語学教材や通信講座、通訳翻訳の講座が儲かる。実
際、本当に儲かるようで若い女性から主婦、定年退職者などから人気があるらしい。
趣味で語学を学ぶことはいいことだと思う。だが、趣味で学ぶ語学と職業にするため
の職業訓練とは全く次元が違う。

 家具を作る家具職人、服のデザイナー、ビルや建物を設計する建築家、ものを書く
作家、音楽を奏でる音楽家、絵を描く画家、どれをとっても職業として生活していけ
るようになるまで数十年以上の訓練なり下積み生活を余儀なくされる。誰だってヘタ
クソな歌は歌えるし絵は描ける。日曜大工で机を直したり、本棚を作ることだってで
きる。セーターやマフラーくらいなら手編みで編める。

 だが、お金をもらって家具を作る人、服を作る人、ものを書く人、音楽を奏でる人
、絵を描く人はそうはいない。しかも人を感動させたり、喜ばせることができる人は
もっと少ない。それができるのが職業として取り組んでいる人だ。通訳者や翻訳家は
職業だ。ボランティアや趣味でやるものとは違う。

 企業組織のなかでストレスを抱える女性、社会から切り離され育児に悩む主婦、定
年後の生きがいを求めてさまよう定年退職者たちの「心のすきま」を外国語の学習と
いう方法で埋め合わせることはすばらしい。だが「憧れの職業」や「語学力を生かし
て」などといって外国語の学習それ自体を目的化し、趣味と職業訓練を混同させる宣
伝文句は度が過ぎている。

 とはいっても、ネット時代の消費者は賢いし様々な情報ツールも手にしている。い
つまでも「憧れの職業」や「語学力を生かして」などといって商売になる時代は終わ
りつつある。ケーブルテレビでは24時間BBCやCNNが流れ、ネットでは世界各
国の言語があふかえっている。外国語を使う仕事だから「憧れ」というのは、どう考
えても古すぎる。

 生活を賭け、人生を賭けて通訳・翻訳に取り組む通訳者、翻訳家は尊敬に値する人
だ。そういう人の中からでしか一流の通訳者、翻訳家は生まれない。同業の通訳者や
翻訳家から尊敬され、クライアントから喜ばれる仕事をするだけでなく、人を感動さ
せる力を持っていなければ一流とはいえない。「憧れ」だけで一流の通訳者、翻訳家
にはなれるものではない。覚悟とひたむきな努力、そして粘り強さを持つ者でなけれ
ば生き残ることすらできないのだから。

(平岩大樹=通訳翻訳館)


[この記事は通訳翻訳館ウェブサイトにも掲載されています]

 ◇掲載記事
  http://www.ithouse.net/japanese/column/doc/20030918.htm

 ◇いままでの記事一覧
  http://www.ithouse.net/japanese/column/box.htm


<= 書籍紹介 =>―――――――――――――――――――――――――――――――

■■………………………………………………………………………………………………
■◇『通訳の英語 日本語』
■■………………………………………………………………………………………………

【著者】小松 達也
【出版社】 文芸春秋
【発刊年月】2003年05月20日
【本体価格】680円 (税抜き)
【ページ数】198p
【ISBN】4166603175
【購入】http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166603175/ithouse-22

──────────────────────────────────────
通訳はとても楽しい仕事だと思う。特に異文化や言葉が好きな人にとっては、「趣味
と実益を兼ねる」という決まり文句があてはまるのではないだろうか。私の場合は大
学生の時のアルバイトがいつのまにか本職になってしまったわけだが、これまで幸運
にも楽しみながら仕事を続けることができた。
                           本文141pより抜粋
──────────────────────────────────────

 著者は50年以上の通訳歴を持つ英語通訳者。大学時代にアルバイトとして通訳を
はじめ大学卒業後、財団法人日本生産性本部の嘱託として渡米し海外視察団の通訳、
米国国務省言語サービス部の通訳者として活躍。1966年に帰国し先進国首脳会議
などの国際会議をはじめ、国家間会議や政府要人通訳、放送通訳を行なうベテラン通
訳者である。

 本書は職業としての通訳者の歴史や日本における通訳産業がどのように発展してき
たのかを歴史資料、通訳者の証言、日本で最初の通訳派遣会社の創設に参加した著者
の経験をもとにまとめられている。

 第1章「通訳の仕事」では現在の日本通訳事情と今後の動向を予測し、第4章「通
訳者への道」では通訳を仕事とすることの7つの魅力を挙げ、通訳者に必要な技術、
プロのキャリアと仕事をつかむまでの道筋を簡潔に述べている。


■■………………………………………………………………………………………………
■◇『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』
■■………………………………………………………………………………………………

【著者】村上春樹 柴田元幸
【出版社】 文芸春秋
【発刊年月】2003年07月20日
【本体価格】740円 (税抜き)
【ページ数】247p
【ISBN】 4166603302
【購入】http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166603302/ithouse-22

──────────────────────────────────────
翻訳というのは、僕にとってはとてつも大きな意味を持つ仕事だし、翻訳作業から多
くの大事なものごとを学んできた。奥の深い、喜びに満ちた仕事である。とくにこの
『キャッチャー』を翻訳することは、純粋な快楽以外のなにものでもなかった。そし
てもちろん、僕はこの小説から多くの大事なことを学んだ。
                            本文7pより抜粋
──────────────────────────────────────

 本書は野崎孝氏の翻訳で出版されたJ・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて
』の新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を翻訳した村上氏と翻訳仲間の柴田氏、
出版編集者の間で行なわれた対談録を書き起こしたもの。

 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の巻末に掲載するはずだった村上氏の「翻訳解
説」が本書に掲載されており、サリンジャー(原著者)がなぜこの小説を書いたのか
、その執筆動機と時代背景を考察している。

 1950年代の米国社会システムの中でサリンジャーが置かれた状況を政治経済、
人種差別、社会階層などの環境要因を分析し作品が生まれた背景にあるものとは何か
、その主張とは何なのかを解き明かし、翻訳により発見された作品の深いテーマと魅
力を語っている。


■■………………………………………………………………………………………………
■◇『バブルの歴史―チューリップ恐慌からインターネット投機へ』
■■………………………………………………………………………………………………

【著者】エドワード チャンセラー
【翻訳】山岡 洋一
【出版社】日経BP社
【発刊年月】2000年03月20日
【本体価格】2400円 (税抜き)
【ページ数】581p
【ISBN】4822241815
【購入】http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822241815/ithouse-22

──────────────────────────────────────
投機の心理と賭博の心理は、ほとんど区別がつかない。どちらも中毒になりかねない
危険なものだ。どちらも運次第の面がある。どちらも誇大妄想的な行動に陥りやすい
。どちらも成功を収めるには感情を抑制する必要がある。
                          本文13pより抜粋
──────────────────────────────────────

 本書は投機によって発生するバブル経済の形成とその崩壊過程を歴史的に考察した
もので古くは古代ローマ帝国に発生したとされるバブルから1989年の日本土地バ
ブル崩壊、90年代後半のヘッジファンドバブルの破綻まで分析されている。

 投機は経済活動にとって「善」なのか「悪」なのかというテーマを中心に、良識あ
人々がなぜ投機の魅力に取り込まれていったのか、その背景にある人間の貪欲さや飽
くなきカネへの執着心が史実とともに描かれている。

 バブル経済を巧みに煽り利益を得た者とそうでない者、天国から地獄に落ちた数々
の資産家や事業家がたどった最後の結末がどんなものであったのか、あまり知られる
ことのない事実が数多く紹介されている。


<= 編集後記 =>―――――――――――――――――――――――――――――――

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■◇「オレ、わたしにも言わせてを取り上げます」
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 このメルマガでは通訳翻訳業界の現場で奮闘されている方々の意見を取り上げてい
ます。「ここがヘンだよ」、「ここがオカシイ」という個人レベルの考えや通訳翻訳
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している方、企業のなかで通訳・翻訳業務に従事されている方、通訳翻訳を研究され
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 メルマガを読んでいるだけでは情報は集まりません。情報を収集、整理し文字にし
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■◇「あなたからの投稿を掲載します」
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「通訳翻訳ビジネスレポート」メールマガジンにも掲載させていただきます。なお将
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