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■「私たち皆の責務」-2005/10/15
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 ドイツ文学の翻訳家で平和運動にも携わる池田香代子氏の、憲法と平和に関する講演を聴いた。翻訳の話はその日のテーマではなかったが、質疑応答の際に、フランクル『夜と霧』の翻訳が出版された時の話が出てきた。

 下山徳爾訳の第1版があるのに、『下山先生のご存命中に新訳を出すという、本来あってはならない失礼なことをした。それでも、先生が試訳を見てゴーサインを出してくださり、異例の扱いが大変有難かった』という池田氏のコメントは、業界の掟など知らない一般聴衆たちに、どのように受け取られたのだろうか。

 アフガン戦争、イラク戦争をきっかけに世界の巨大な権力と闘い、憲法上の価値を守る活動をしてきたという池田氏の話の最後に、翻訳というあまり物騒でもないフィールドで、これほどまでに「表現の自由」が圧殺されている事実が出てきて、あ然とした人も少なくないだろう。

 「翻訳にゴーサインを出すのは大先生ではなく、お金を出して読む読者ではないのか?」という素朴な疑問と怒りを感じ、業界の内輪受け・内輪もめの悪しき慣習を想像し、げんなりするのが普通の感性ではないか。

 池田香代子氏個人が悪いという問題ではなく、今まで惰性に任され、棚上げにされてきた問題を正面から見直すことが、私たち皆の責務だと思う。

 自分が訳したものに対する著作権は守られた上で、「新訳を誰にも出されない権利」とはいったい何なのか。どこの業界だって、ライバルとしのぎを削っていい物を作り合っているのである。

 紙おむつの新製品を各社がこぞって出せば子育ても便利になり、カップラーメンの新製品たちが競い合うことで、独身者の生活も少しは多彩になる。その程度の恩恵も、翻訳書の読者は得られないというのだろうか。

 古典の新訳が次々と出されているといっても、くそ面白くもない古典を学校の国語の時間に読まされて文学離れしてしまった層にはすでに手遅れだ。読者が減れば、翻訳業界どころか出版業界全体の地盤沈下を招く。現にそうなっている。内輪受け・内輪もめの悪しき風習は、結局自分たちの首を絞め、不毛な仕事の取り合いを生むだけだ。

 CMが他社製品より優れた点をアピールするように、訳者たちが堂々と「こんな古い文体は今の一般人に読めない!私の訳の方がセンスあるでしょ!皆さん読んでください!」と言える正常なマーケットを作るべきだ。新規参入者とフェアに戦い、勝ち抜いた者こそが真の「大先生」になれるのではないか。

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田中 モー子
 http://www.bu-min.com


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