私のところには通訳翻訳人材の募集をしていないのにもかかわらず、フリーの通訳者・翻訳者、外国人、海外在住者から売り込みメールや電話を受けることが多い。だが、残念なことに最低限のビジネスマナーすらできない人が多い。
特に電子メールでの売り込みがひどい。名前すら名乗らない者、メールアドレスしか書かない者もいる。少なくとも経歴や経験を記載するのならまだ理解できるし、機会があれば連絡をするかもしれない。
だが、大抵の人の電子メールや電話での売りこみは「仕事が欲しい」しか言わない。一体自分がどういう経歴やバックグランドを持っていて「こういうことができる」という提案すらない。しかも前提に人材の採用をしていないのにである。
この不景気で熱心なのはわかるが、自分が一体何をしようとしているのか。そして自分が行っている行為がどういう意味を持っているのか考えず「打てば当たる」という感覚で安易にコンタクトしてくる人が多い。
よく経験談で電話帳で片っ端しから「履歴書を送る」などのハウツーが書かれているが、時間と金の無駄になる可能性が高い。しかも怪しいところに登録されたはいいが「報酬が支払われない」などつまらない損をする。
全ての人間がそうとうわけではないが、プロとしてやってきた人のメールや電話応対はやはり違う。まず自分がどこの誰だということをまず言う。決してニックネームや匿名ではない。そして履歴書や職務経歴書はかならず添付するなり記述されており、連絡先も必ずといっていいほど入っている。いわゆる一般常識のビジネスマナーができている。
通訳・翻訳という仕事は「言語」のプロフェッショナル職種であるがために言語能力(通訳能力・翻訳能力)を高めさえすれば仕事になると思っている人も多いだろう。だがよほどのインパクトのある経歴、実績、経験を持ったスペシャリスト人材なら別だが、そういう人材ほど数年先まで仕事がぎっしり詰まっていてビジネスマナーもしっかり備わっているのである。
経験も実績もなく、またこれといって能力が優れているというわけでない人は、とりあえず経験、実績を積むまではそれ以外のところで点を稼がなくてなならない。それは「納期は守る」、「欠勤はしない」というごくごく当たり前のビジネス常識だ。
仕事を任せる立場からいえば、「納期は遅れる」、「連絡が取りにくい」、「欠勤する」という人はまず雇わない。ただし、「国内ではこの人以外にできる人がいない」という人材は別だが、こういう人ほど約束は絶対まもる人である。
どこの業界でもそうだが、プロの中でもスペシャリスト級の人は数えるくらいしかいない。そのスペシャリストを目指して懸命に努力している人もいるだろう。けれど、通訳・翻訳業界に進もうとする人や駆け出しの人は「ビジネスマナーの重要さ」に気がつかない人が多い。
ことさら通訳・翻訳能力を高めれば、仕事になると思っているならここでもう一度、再考しビジネスマナー本の一冊でも購入してよく読むことである。ある程度の能力と誠実な態度を持っている人材ならば、いくらでもチャンスはあるだろう。そういう業界であることを知ってから学校に行くなり、営業活動を始めればいい結果が出るのではないか?
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