本田技研工業(ホンダ)から世界初の人間型自律二足歩行ロボットが発表されてからはや5年半。政府機関の研究所ではなく民間企業、しかも車を作っている「あのホンダ」から二足歩行ロボットが生まれてくるとは予想もしなかった。てっきり海外の研究所あたりで密かに軍事開発されているものと思い込んでいたので意外だった。
『機動戦士ガンダム』等のロボットアニメを見ていた世代が大学の理工学部に入学し「二足歩行ロボットの試作品らしきものを熱心に製作している」という話を聞いたことはあった。それでも企業と大学が共同で人間型二足歩行ロボットの開発をすすめるという話は聞かなかった。
実際、ホンダでの人間型自律二足歩行ロボットはすべて自社開発だ。ホンダでのロボット開発史は、産業ロボットが登場する1970年代までさかのぼることができる。当時、コンピュータ制御技術の進歩によって大手自動車会社の車体組み立て工程に溶接ロボットがぞくぞくと設置されていった。
ホンダではグループ会社のホンダ工機を通じて1973年、ホンダの第一号ロボット「HRB600」を独自開発する。この「HRB600」が実際に設置されたのは一台のみで、ボンネット溶接ラインに使われただけだった。だが、車体一台あたりの生産コストを削減し品質向上を実現するため、溶接ロボットを積極的に開発・導入していった。
76年、フロア・マルチ・ロボット溶接ステーションマシン。79年、溶接作業別に機能していた14台のロボットを統合したロボットステーション。84年、天井走行式溶接ロボットを開発し、高集積・高密度型の車体溶接システムを完成させる。これによってホンダは多機種少量生産、変化即応生産を実現。世界一の省スペース溶接ライン工場を作り上げた。
その後、更なる高い目標をぶち上げ、ヒューマノイドロボット開発が始まる。それが「AISIMO(アシモ)」の原型となる「E0」だ。「E0」は86年に開発され、その後「E」ではじまるEシリーズは「E6」を最後に93年まで研究された。Eシリーズは二足歩行の原理を研究し「動歩行」、「階段の昇り降り」、「斜面歩行」、「またぎ」を実現し二足歩行技術を確立した。
腕と胴体がついて人間型ロボットになったのは「P1」からはじまるPシリーズ。93年から開発が始められた。この「P」ではじまるPシリーズには「P1」、「P2」、「P3」があり、それぞれ人間型ロボットのモデル第1号機としての「P1」、世界初の人間型自立二足歩行ロボットとなった「P2」、完全自律人間型二足歩行ロボット「P3」という特徴がある。
最新モデルの「AISIMO(アシモ)」は「P3」の後継モデルで2000年に公開された。全高120cm、重量43kgと「P3」よりも軽量・小型化され、携帯コントローラーでの操作が可能になっている。2000年の12月にはIBM製の音声認識・発話機能プログラムを搭載し簡単な受け答えができるようになった。2001年4月からはアシモのレンタルサービスが展開されている。
一方、「自動音声翻訳システム」はATR音声翻訳通信研究所が独自に研究・開発を進めてきた。すでに研究用の日英双方向音声翻訳システム(ATR−MATRIX)が開発されており、市販ノートパソコンにもインストールできるものになっている。ただし、ATR−MATRIXは研究用の音声翻訳システムであり一般に販売されていない。
ATR−MATRIXは自然な話し言葉を音声翻訳するシステムで、話者登録や音声登録を必要としない。システムは音声認識、言語翻訳、音声合成、対話処理の技術で構成されている。いまのところ音声翻訳の対象は旅行会話だけに限定されており、その翻訳性能はTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)換算で500点台となっている。
現在、ATR−MATRIXは携帯電話やPDA等の小型携帯情報端末での利用を想定したネットワーク型音声翻訳システムに向けて研究・開発が進められている。ATR音声翻訳通信研究所の担当者に聞いたところ「アシモのようなロボットもコンピューターで動く以上、搭載は不可能ではないが集音マイクや音響モデルの研究・開発が必要となる」という。
以上を踏まえてみると、たとえアシモにATR−MATRIXを搭載したとしても集音マイクや音響モデルの研究・開発が必要で、そのままでは使えないことがわかった。ただ、アシモが簡単な受け答えをしている場面をみると、人間型通訳ロボットの実現もそう遠い未来のことではないと実感する。現場の開発者がその気になれば数年後くらいには登場してくるかもしれない。
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