ジャンクフードばかり食べていると、舌の味覚が鈍感になり障害を引き起こす。ジャンク翻訳書ばかり読んでいると日本語の語感が狂う。私もジャンク翻訳書障害に悩まされたひとりだ。ジャンク翻訳書は、たしかに日本語で書かれている。だがさっぱり日本語で理解できない。読み返してみても意味不明なのだ。
そのため、ジャンク翻訳書を読んだ読者は自分の読解力が足りないと思ってしまう。重症のジャンク翻訳書障害にかかると、読者は本を避けるようになる。自分の頭ではとてもついていけない、理解できないと自分を責めるようになるからだ。
ジャンクフードによる味覚障害は「亜鉛不足」によって引き起こされる。ジャンク翻訳書による語感障害は「三流翻訳者」によって引き起こされる。ジャンクフードによる味覚障害の治療法は亜鉛補給である。具体的な補給食材としては、貝の「牡蠣」を食べるのがよい。だが、ジャンクフードを食べないのが一番いい。
ジャンク翻訳書による語感障害の治療法は、質の高い日本語の補給だ。具体的な補給材料としては夏目漱石などの文学作品でもいいし、名の知れた日本人評論家の著書でもいい。質の高い日本語の文章を読み、補給すれば語感障害は消えてなくなる。ジャンクフードと同様にジャンク翻訳書を読まないのが一番いい。
そこで重要になるのが翻訳書とジャンク翻訳書の見分け方である。ジャンク翻訳書による語感障害は「三流翻訳者」によって引き起こされる。だから「三流翻訳者」が翻訳したものは読まなければいい。
あまり注目されてはいないが、翻訳書もバックや靴のブランドのように翻訳ブランドが存在する。この翻訳ブランドを活用すれば、翻訳書とジャンク翻訳書を見分けることができる。
翻訳書は翻訳家によってブランド化されている。読書家は一流の翻訳家によってブランド化された翻訳ブランドを信頼する。例えば、翻訳家の山岡洋一が翻訳したジェームズ・C・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』は山岡ブランドであり、翻訳家の仁平和夫が翻訳したトム・コネラン『ディズニー7つの法則』は仁平ブランドである。
だから山岡ブランドや仁平ブランドに深い愛着を感じる読書家は、翻訳家で本を選ぶ。信頼できる一流の翻訳家をみつけることは、読書家の楽しみでもある。一流の翻訳家、気に入った翻訳家をみつけると芋ずる式に良書リストが手に入る。なぜなら、翻訳家の翻訳作品リストがそのまま良書リストになるからだ。
翻訳書から学び、一流の原書を一流の翻訳であじわうためには信頼できる翻訳家をみつけなければならない。一流の翻訳家が翻訳した翻訳書を意識して読むようにすれば、ジャンク翻訳書に遭遇しても「三流翻訳者」のジャンク翻訳だと思えるようになる。
人気作家の村上春樹が翻訳したJ・D・サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』は村上ブランドを全面に打ち出した翻訳ブランド戦略の典型だ。宇多田ヒカルが翻訳したコズミック・デブリ『エミリー・ザ・ストレンジ』も翻訳ブランド戦略のひとつだ。
本が売れないなか、出版業界はどうやって本を売るのか、いろいろ試行錯誤しているようだ。それが翻訳ブランド戦略となって『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『エミリー・ザ・ストレンジ』を生んでいる。
ここ数年、PCマニアやアニメオタクの趣味が一般に広がっていく社会現象が起きている。コーヒー豆でさえもそうだ。おなじように読書マニアである読書家のたしなみが、一般読者に広がっていく社会現象も起きつつある。それは翻訳書を翻訳家ブランドで選ぶという現象だ。
「スーツはゼニア、靴はフェラガモ、コーヒー豆はスターバックス、翻訳書は山岡洋一がいい」。こんな会話を街中で聞けるようになる日も近い。
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