通訳翻訳の業界誌と通訳翻訳スクールにはあまり語られることのない関係がある。それは業界誌とスクールがお互いをうまく活用し、それぞれのビジネスを拡大させてきた関係である。長引く景気低迷にともない、この関係にも「ほころび」がみえはじめた。
まず、スクールをみてみる。スクールビジネスの基本は通学講座、通信講座を設定し受講生を集め、その受講生から講座受講料やテキスト代をもらって儲けるビジネスである。スクール経営のポイントは、効率よく受講生を集め、末長く受講させることである。
スクールは効率よく受講生を集める広告ツールとして、業界誌を好んで使う。典型的なスクールは「あなたも翻訳家になれる」、「語学を生かして」という宣伝文句を広告に散りばめ、受講生を集める。
一方、業界誌の大きな収入源となっているのが、スクールからの広告収入だ。スクールが業界誌に掲載する広告掲載料は、スクールが受講料収入で儲けたお金。つまり受講生ひとり一人が納めた受講料だ。
業界誌は有料の広告掲載枠だけでなく、積極的にスクールの記事や特集を組んで宣伝する。そうすることでスクールに入学する受講者は増え、スクールの受講料収入も増える。スクールの受講料収入が増えれば、スクールが業界誌に広告掲載する回数も増え、業界誌が受け取る広告収入も増える。
業界誌とスクールの双方にとって儲けることができる「仕組み」である。この仕組みを支えるためには「幻想」を信じる受講生の存在が欠かせない。「あなたも翻訳家になれる」、「語学を生かして」というキャッチコピーを鵜呑みにし、信奉する受講生が必要不可欠なのである。
そこで業界誌は「あなたも翻訳家になれる」、「語学を生かして」というキャッチコピーを連想されるような記事を書き、特集を組み、スクールの宣伝記事を書く。ちなみに「憧れの職業」という「幻想」もその過程で創作され、さかんに使われたキャッチコピーだ。
しかし、流れは変った。長引く日本経済の低迷にともない、まじめに会社に尽くしてきたサラリーマンたちは首を切られ、セクハラを訴える女性社員、バイリンギャルもどこかに消えた。
1990年代はまだ家計や個人にも余力があった。しかし、企業のリストラが年々大規模かつ容赦なく実施され、友人や家族がリストラにあったり、企業そのものが倒産していくようになった。
書店に陳列された本や雑誌は売れない。一方、図書館の貸し出し予約数は急上昇している。消費者は支出を切り詰め、生活防衛に必死だ。「憧れの職業」などという「幻想」にうかれる人はもういない。
「国際化」のかけ声によって開花した語学ブーム。語学ブームにビジネスチャンスを見出した業界誌。語学ブームの終焉とともに業界誌は廃刊や縮小の道をたどる。それはスクールが効率よく受講生を集める広告ツールを失うことを意味する。
焦るスクールは業界誌のかわりにポータルサイトを広告ツールに使おうとしている。だが、インターネットユーザーに「幻想」は通用しない。よって業界誌ほどの広告効果は期待できない。
業界誌の廃刊や縮小はスクールの集客力を削ぎ落とし、スクールの台所事情を悪化させる。スクールの台所事情が悪化すれば業界誌がスクールから受け取る広告収入も減ることになるだろう。
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