歯の数が多い方にじゃない、歯の数が少ない方にだ。いまの翻訳出版は、歯数が異常に多い「巨大な歯車」でまわっている。回転数だけをみれば「レッドゾーン」まで上がっているが、本来のスピードとパワーは出ていない。
歯数が多いギアを使っているから、簡単に動かせる。歯数が少ない方にギアシフトしないから、一部の読者は原書に乗り換えた。少々わからない単語があろうが、いまいちよくわからない箇所があろうが、インチキ翻訳を読むよりましだ。そう考えたに違いない。
危険な水準にまで回転数を上げているから、やかましい騒音だけが聞こえてくる。音量はたいしたものだが、ギアが軽すぎるから三輪車並みのスピードしか出ていない。翻訳書を手にとっても、三流翻訳書ばかりでは誰も買わなくなる。あたりまえだ。
どんなに出版点数を上げてみても、歯数が多いギアに入れているからスピードとパワーが生まれない。歯数が少ない方にギアを上げれば、出版点数は落ちてスピードとパワーが生まれるのに、それをやらない。
ギアを上げれば、権威づけのための翻訳はできなくなる。そうなれば、ニセ学者たちは「学者」ではなくなる。学者とは何か、学問とは何かが問われるようになり、翻訳学問は三流学問に転落する。だから、ニセ学者たちは「みせかけの権威」をつかってギアシフトを封印してきた。
ところが、「みせかけの権威」に我慢ならない翻訳家がギアを上げた。ささやかな反攻だったが、確実にギアは上がっていった。当然、「学術的に耐えない」などというレッテルを貼られ、徹底的にこきおろされた。ギアを上げた翻訳家の何人かが潰され、何人かが執念で生き残った。
ギアを上げ続ける勇気と覚悟をもった翻訳家は、さらに加速し「みせかけの権威」を突き抜けた。ニセ学者からぶん取り返したギアを「無限変速機」につけかえてスピードとパワーを高めることに成功したからだ。
この10年間で、その差が大きくついた。ギアを上げ続けた翻訳家のスピードとパワーにニセ学者とインチキ翻訳者はついてこれなくなった。ニセ学者とインチキ翻訳者が脱落していく過程で、ニセ翻訳とインチキ翻訳が露呈することになった。
追い討ちをかけるように少子高齢社会が到来し、「みせかけの権威」を演出するための奇劇は受け入れられなくなった。権威づけのためにやった翻訳が、アダとなって「権威はがし」に向かおうとは皮肉なものだ。
「真の学問」を探求していれば、こんなみっともない事態にはならなかっただろう。アカデミズムという「ぬるま湯」につかりながら、お互いの背中をこすり合い、ニセ翻訳を「実績」などといって数えているから、こういう結果を招くのである。
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