Column
通訳翻訳館
コラムトップ 記事ボックス 記事を投稿 閲覧の注意 ホームヘ


■「19歳の日本語通訳」-2005/06/20
Mag2 Logo
通訳翻訳ビジネスレポート』メールマガジンで新着情報をお届けします(登録無料)


 韓国・中国の映画・ドラマや文学を見聞きし、訳していると気づくことがある。女性の登場人物の生活。中国では毛沢東以降男女平等が進み、結婚後、出産後働くことは当たり前すぎて、日本のような悩みのテーマにもならない。韓国でも、貧しい女性は小さい店を経営したり、市場で雑貨を売り、男よりたくましく働く。

 金持ちの女性やサラリーマンの妻達も全く暇ではない。不動産を転売したり、契(頼母子講)などをして財産を増やすのに懸命で、それに成功した女社長、実業家もよく出てくる。

 つまり、女性が単なるお友達関係以上の経済的、実力競争的な何かで必ず社会とつながっている。「なーんにもできない、しない」おばさんたちは登場しないということだ。

 中学時代、海外文通の好きだった私は、外国のペンパルに、当時流行の漫画「オバタリアン」の4コマ漫画を一部コピーし、訳して見せた。セリフは簡単だから間違っていなかったはずなのだが、通じなかった。

 テレビを見てせんべいをかじり、バーゲンで買い物するだけの生活をし、人には偉そうにどなりちらす「オバタリアン」は、外国には存在しなかったのだ。フツーの日本人中学生の私は、どこの国でもおばさんはこうだと信じて疑っていなかったのだが。
 
 日本は第二次大戦後、国家主導で性別役割分業の安定社会を作った。冷蔵庫を買い、洗濯機を買い、どれだけ余裕ができても、女は「なーんにもできない、しない」ままでよいと約束し、死ぬまで年金も与えた。そんなことができた。世界に例を見ない社会である。

 外で男が死ぬほど働いていたって、家の中には「なーんにもできない、しない」女達がのうのうと暮らしている。それを見た子供たちが、どちらをうらやましく、身近に、当然に思って暮らすかは、火を見るより明らかだ。

 普通の子供が普通に大人になっただけで、「若者がニートになった」わけではない。にわかに雇用対策などしても多分無駄だ。「なーんにもできない、しないでも楽に暮らしていける」例が、特殊な1人2人じゃなく社会にこれだけ幅を利かせていれば、誰だって遊んで暮らしたいと思うのは必然である。

 こんなにラクな主婦の地位が保証された中で、働きたい女性が労働環境を改善したくても、大きな動きを作り出すことはできなかった。女性運動を女性がつぶすとまで言われた。アメリカのウーマンリブに続こうという動きもあったが、現地では反キリスト教運動・堕胎自由化など日本とは違う問題がたくさんあって、うまくリンクしなかった。

 その一方で、中国・韓国の女性たちが、実力を磨き、しのぎを削って働く姿が、訳され、伝えられてこなかったのではないか。欧米だけに目を向け、アジアの隣国を軽視する姿勢でここまで来た、しっぺ返しを今食らっているのではないか。

 北朝鮮を訪ねたとき、19歳の日本語通訳の女子大生が、みごとな日本語で通訳した。一方で日本人達が「岐阜県」「福岡県」などの出身地を言ってもどこだか分からない、日本地図も持っていないと言った。日本に来ることも身近に接することも全くなしで、これほどの実力をつけているのだと驚嘆した。

 「よくそんなにがんばって勉強できるのね」と声をかけた。「ここでは、がんばるのは当たり前です。がんばらなければ……生きていけません!」と彼女は言った。社会主義を実現し、失敗したのはどっちの国なのだろうか。私は頭がくらくらしてきた。

こんな記事もおすすめです こんな記事もおすすめです
Taxi通訳Taxi通訳通訳業
耳だけの語学耳だけの語学通訳業
通訳の心構え通訳の心構え通訳業
黒子通訳者黒子通訳者通訳業
黒子から主役へ黒子から主役へ通訳業



田中 モー子
 http://www.bu-min.com


通訳翻訳ビジネスレポート』メールマガジンで新着情報をお届けします(登録無料)

Powered by まぐまぐ

記事一覧




コラムトップ 記事ボックス 記事を投稿 閲覧の注意 ホームヘ



You are here > Home > 投稿コラム > 記事ボックス > 2005/06/20投稿記事

通訳翻訳館

ホーム新着求人通訳求人翻訳求人求人掲載メルマガコラムブログTwitter館長室広告免責運営
通訳/翻訳のお仕事発見!通訳翻訳サービス提供者発見!通訳翻訳ビジネスレポート翻訳家で選ぶビジネス翻訳書
フリーランスの書架ビジネスセンスを磨く本独立開業のための本仕事獲得のための本キャリアデザインの本
プロフェッショナルの書架通訳者が書いた本翻訳者が書いた本日本語を磨く本異文化を学ぶ本